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東京地方裁判所 昭和54年(タ)590号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

請求原因中、趣旨関係部分の骨子は、次のとおりである。

1 原告(昭和九年三月三日生)と亡島津忠韶(昭和二年一二月二〇日生)は、昭和二八年九月三〇日婚姻の届出をし、昭和三二年八月一二日長男忠範をもうけた。

2 戸籍上の記載によると、原告と忠韶は、昭和四八年三月一日、東京都世田谷区長に対して、協議離婚の届出をしたものとされている。

3 本件協議離婚がなされるに至つた経緯は次の通りである。

(一) 昭和四七年ころ、忠韶は、大学時代の友人の依頼を受けて、同人が代表者を務める株式会社の債務の連帯保証人となり、また、他にも個人的な債務があつて、忠韶のみならず原告まで債権者の追及を受けていた。

(二) 昭和四八年二月ころ、忠韶は、既に原告の押印がなされている離婚届用紙を示し、原告に対して、「お前が、離婚届に署名さえしてくれれば、負債の件も何もかも巧くいく、たつた一年間だけの内々の書類上の手続だけのことだから。」、また、「慰籍料には税金はかからない。お前名儀の金で京都に利殖用のアパートでも買つて運用したらどうか。どつちにしても一年間のことだ。先々は結局忠範のものになつて増えるから、一種の税金対策にもなる。」等と申し向けて、離婚届への署名を求め、原告は、家産の維持に少しでも役立つのであればと思い、忠韶の実質的な結婚生活を解消する意思はなかつたにもかかわらず、これに署名した。

4 本件協議離婚は、次の理由により無効である。

(一) 原告は、債権者の追及を免れ、あるいは家産を維持する等の方便のために、協議離婚に同意したにすぎないから、離婚意思が存在せず、無効である。

(二) 原告は、忠韶と離婚しただけでは家産の維持、増殖ができないにもかかわらず、これができるものと誤信して、協議離婚に同意したから、本件協議離婚は錯誤により無効である。

【判旨】

一<証拠>を総合すれば、請求原因1ないし3の各事実は全て認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二右認定の事実を前提として、請求原因4の主張につき判断する。

1 請求原因4(一)につき判断するに、本件協議離婚は、原告が、単に、債権者の追及を免れるため、あるいは家産を維持するためのいわば方便として、忠韶との協議離婚に同意しただけで、実質的な同居生活を解消する意思を有しなかつた場合に該当すると認められるところ、このような場合においても、原告及び忠韶が離婚の届出をする意思を有していた以上、真に法律上の婚姻関係を解消する意思を有し、それに基いて忠韶との本件協議離婚がなされたと認めざるを得ず、原告に離婚意思がなかつたものとは言えないから原告の主張は理由がない。

2 請求原因4(二)について判断するに、仮に所論のような誤信があつたとしても、原告は、前記判示の通り、離婚意思を有し、法律上の婚姻関係を解消する点において何ら認識の齟齬は存在せず、右誤信は、離婚が忠韶の財産に対する事実上の波及効果について存するにすぎないから、法律行為の要素に錯誤が存する場合にあたらず、原告の主張は理由がない。

(牧山市治 古川行男 池田光宏)

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